憩室出血とは
大腸憩室症は、腸管の外側に向かって大腸の壁の一部分が風船のように飛び出したような状態を指します。
先天性の場合もありますが、ほとんどの症例が後天性であるといわれており、大腸の壁の強さと腸管内の圧力のバランスが崩れる事でできると考えられています。
憩室出血の原因
憩室から出血するのは憩室底の脆くなった血管が刺激により傷つことで起こります。
腹痛や下痢などを伴わず、突然の下血で発症することが特徴です。
糖尿病・高血圧症・虚血性心疾患を治療中の方や、抗血栓薬や鎮痛薬(NSAIDs)を内服中の方に起こりやすいので、これに該当する方は注意が必要です。
憩室出血の症状
突然の大量下血として症状が現れます。
腹痛を伴う事がなく、突然、鮮やかな出血、あるいは赤黒い出血を多量に認めた場合には、憩室出血を疑います。
憩室からの出血が起こった場合には、どの憩室から出血しているかを同定することは困難な場合が多く、さらに憩室出血の4分の3は自然止血するため、実際に内視鏡で観察した場合には既に止血している場合も少なくありません。
しかし、一方で約4割が再出血すると言われており、出血量が多く、輸血を必要とする場合もあります。
とくに、血液をサラサラにする作用のある抗血小板薬あるいは抗凝固薬を内服中の場合には自然止血後も再出血する危険があるため注意が必要です。
憩室出血の検査方法
憩室出血は間欠泉のように、出血と止血を繰り返すことが知られています。
また元来、大腸は便をためることも可能な臓器であります。当然ながら出血した血液もある程度はためておくわけです。
つまり「おしりから血が出ている」=「憩室からの出血が持続している」とは限らないのです。
血便が主な症状の患者さまでは問診や身体所見などを基に、緊急の処置が必要かどうか判断されます。
処置が必要な場合、出血している部位を調べるために腹部CT検査や大腸内視鏡検査が行われます。内視鏡検査でも出血部位が確認できない場合は出血シンチグラフィーという検査が行われることがあります。
いずれの検査でも、憩室から血が出てるところをその場で確認しない限りは、その出血が憩室からの出血であったとはいえないわけです。状況証拠のみでは「憩室出血の疑い」までです。
そのような事情もあり、出血部位の検出率は50%を切るとの報告もあります。
出血が起こり始めてから、経過時間が短いほど、各検査での出血部位の検出率は上昇するので、肛門からの出血が多めにあった際には出来るだけ早急に医療機関を受診するようにしたほうがいいでしょう。
問診
出血に伴って起こった症状(腹痛、下痢、潜血便)の有無、出血をもたらしやすいNSAIDs(=非ステロイド性抗炎症剤)を含むアスピリンや抗血小板薬の使用歴を確認します。
腹部造影CT検査
血液中に注入した造影剤が漏出する箇所を観察し、出血部位を確認します。
大腸内視鏡検査
出血部位および出血の様子を確認し、可能であればそのままクリップなどで止血します。
憩室出血の治療法
多くは保存的治療によって自然に止血するのを待ちます。
出血量が多かったり、出血が持続したりする場合は内視鏡的止血術が試みられます。
内視鏡的止血術が不向き、または不成功の場合、動脈塞栓術が行われます。内視鏡的止血術および動脈塞栓術が不成功の場合、大腸切除術が行われます。
保存的治療
絶食を行い、腸管安静により、自然に止血するのを待ちます。NSAIDsおよびアスピリンの服用は、大腸憩室出血および止血後の再出血のリスクになることが知られているので、それらの薬の服用は中止します。
内視鏡的止血術
内視鏡を用いて止血クリップなどで出血点または憩室の開口部を、塞ぐなどして止血します。
動脈塞栓術
カテーテルで金属のコイルなどを出血部位に送り、栓をして止血します。
大腸切除術
開腹して出血源の憩室がある大腸を切除します。
大腸内視鏡で出血している憩室を発見できた場合にはクリップで機械的に挟んで止血するクリップ法が最も有効で安全です。
クリップで憩室内の出血点を絞扼することで止血することが理想的ですが、出血点の同定が困難な場合には、憩室開口部をクリップで縫縮することにより止血を試みます(図2A、B)。
多くの症例で自然止血するか内視鏡的に止血できます。一方、大量出血によりショック状態にあるような場合には、腹部血管造影などを用いて活動性出血を確認して選択的動脈塞栓術による止血処置や緊急手術によって出血腸管を切除することによって止血します。
尚、手術の場合は、出血部位を術前に明らかにしておくことが重要です。
憩室出血の治療
日本では内視鏡を使用して止血術を行うことがほとんどです。ごくまれですが、大出血を起していて内視鏡では止血できない場合があります。
そのような大出血の際や、内視鏡の止血後も頻回に出血をくりかえすときなどはカテーテル治療(動脈塞栓術)や外科的切除(腸管ごと切除する手術)を行うこともあります。
一時的には派手な出血を起こす憩室出血ですが、70-80%は自然に止血することや本当に重篤な出血に発展するものは3-5%程度であることも分かっています。